天願大介のなまずブログ

2016年8月16日

名古屋、リベンジ、ブルース・リー

去る8月6日、目黒のお寺・高福院の上映に、顔を出した。


目黒の駅からすぐ、都会の真ん中に突然お寺とお墓が出現する。いい感じの古いお寺で、そこの座敷をお借りした。よそに貸したことはないそうだが、プロデューサーたちが飛び込みでお願いし、貸していたただいのである。
暗くないと映画は上映できないから窓を暗幕や黒紙で潰し、畳の座敷に座布団を敷いて観ていただく。なまず映画では珍しくない光景だ。二本の上映の後、お客さんたちに少しだけ解説的なことを喋ってお開きとなった。ご鑑賞ありがとうございました。夏の思い出になりましたでしょうか。
『魔王』も『赤の女王』も、教訓的なことがあるわけでもハートウォーミングでもない(むしろ逆だ)。あらすじを説明するのも難しい。いろんな要素が混ざっていて、何のジャンルか悩む映画だ。ーこれは映画史に一番新しく登場した「なまず映画」というジャンルなのである、と密かに思っているが、まだ大声で言うわけにはいかない。

さて、次は名古屋だ。
8月20日に名古屋の劇団pH-7地下劇場で上映させていただく。名古屋は2014年の6月に大須のシアターカフェ、2015年3月に新世界スタヂオというところで上映した経験がある。これまで大阪や長野でも上映してきたが、地方上映というのは難しい問題がいろいろあって、苦戦してきた。それを聞いた名古屋出身の井村昴氏が「俺の地元でリベンジするぞ!」と駆けつけてくれることになった。

以前も書いたが、井村さんは俺のデビュー作『妹と油揚』の出演者で、それ以来長いつきあいである。もちろん『魔王』『赤の女王』両作品にも出演している。黒テント出身、現在は天野天涯率いる少年王者館に所属し、未だアングラ魂を忘れぬ、信用できる男だ。
後半の山場、中国人の女の子が下品な日本人の男たちに乱暴されそうになる。そこに『燃えよドラゴン』のテーマが流れ、暗闇からブルース・リーに扮した井村昴がヌンチャクを手に登場する。この芝居で一番盛り上がる場面で、観客は拍手喝采だ。初演のときもこの役で各地で大人気だったとか。空手を学んだ井村さんはブルース・リーを尊敬し、いい年して筋トレのしすぎで身体を痛めたりしている。このときも上半身裸で怪鳥音を発し、元気にヌンチャクを振り回していた。

『魔王』より

俺はラロ・シフリンの音楽に感銘を受けていた。あの曲がかかった途端、観客の気分が一瞬で高揚したのがわかる。『燃えよドラゴン』はB級映画やTVドラマでいい仕事をしてきたラロ・シフリン作品中の名曲で、サントラにはブルース・リーの怪鳥音がミックスされている。だからあの曲を聴けば頭の中にブルース・リーが現れる。
中学のとき、渋谷の映画館でブルース・リーを観たときの衝撃は忘れられない。ほとんどの日本人が初めてカンフー・アクションを目撃した。あの不思議な動き、独特な止まり方、表情、怪鳥音……どれもこれまで見たことのない、俺にとってはまったく新しい発明に思えた。
瞬く間に日本中にカラテ・ブームが巻き起こり、キック、プロレス、格闘技の進化が始まってそれが現在のUFCまで続くことになる。すべてはブルース・リーの映画がきっかけだったのだ。しかも、日本で『燃えよドラゴン』が公開されたそのとき、ブルース・リーは既にこの世にいなかったのである。
座頭市と眠り狂四郎を蹴り倒す井村さんを眺めながら(そういう芝居だった。微妙でしょう?)、コペンハーゲンやモスクワの裏路地にブルース・リーのポスターが貼ってあったことを思い出した。
『燃えよドラゴン』公開時のインテリ批評家のように、ハリウッドのインチキ・オリエンタル趣味のB級アクション映画だと切って捨てることは簡単だ。しかし、どんなに馬鹿にされても、ブルース・リーは伝説となりその影響力を失っていない。『イップマン』に至るまで、これだけ伝記映画が作られたスターは他に存在しないだろう。
ブルース・リーとは何だったのか。そろそろちゃんと研究しなければならない。俺は客席でそう考えていた。

名古屋の上映と同じ日の13時半、愛知県産業労働センター/ウインクあいちの小ホールで、日本映画大学主催の「高校生のための映画上映会」が開かれる(高校生、保護者、高校教員は無料)。映画は『燃えよドラゴン』だ。上映後、俺のトークがある。
前回も書いたが、映画というものは、親や教師から学ぶよりも、もっと大きなモラルや普遍的正義を教えてくれる。娯楽映画の一番大切な役割はそれだ。スタローンやイーストウッドやブロンソンやブルース・リーの映画をちゃんと観てきた少年は、喧嘩はするだろうが卑怯なことはできない。恥ずかしいからだ。
力を振り回し平気で人を傷つける恥知らずがこれだけ多いこの世界で、恥ずかしいという気持ちを持っていることが、本当の男らしさだと俺は思う。

チラシに俺はこんな文章を書いた。

『燃えよドラゴン』は間違いなく世界を変えた映画の一つだ。

白人至上主義のハリウッドで東洋人が本物のスターになり、これ以降の格闘アクションはすべてこの作品の影響下にある。世界中の若者が、東洋に伝わる武術の歴史と技法を知り、大げさにいえばその魂を発見したのだ。
もし君が海外へ行く機会があったら、厳しい境遇に生きる若者たちに、お前はブルース・リーを知っているかと訊ねてみたまえ。彼らは笑って、あの怪鳥音を聞かせてくれるだろう。
差別され踏みつけられ歯を食い縛って生きる者の心の中に、ブルース・リーは今も英雄として生き続けているのである。
映画を知り、学び、作る意欲のある者は、娯楽映画を馬鹿にしてはいけない。娯楽映画こそが世界を変える力を持つ。
『燃えよドラゴン』を体験し、そのことを確認してみよう。

8月20日、俺は『燃えよドラゴン』を観た高校生たちに、ブルース・リーを語る。何人来るかわからないが、来た若者たちには映画の魂を伝授するつもりだ。このプログを読む高校生はまずいないと思うので、名古屋の映画好きな高校生をもし知っている人は『燃えよドラゴン』上映のことを伝えて欲しい。高校の先生も大歓迎です。

その後、俺はなまず映画の上映に駆けつけて解説トークをする。名古屋の映画ファンの方々、映画館で上映しないなまず映画を観るチャンスですぞ。元黒テントのあの名古屋のブルース・リーも駆けつけてくれる。どんなリベンジになるかわからないが、きっと暑い夜になることだろう。

9月17日には目白庭園・赤鳥庵での上映。今村昌平のドキュメンタリー『からゆきさん』『ブブアンの海賊』もここで上映しますので、夏の終わりにぜひ(トークもあります)。