天願大介のなまずブログ

2015年4月30日

連休の最終日5月6日、阿佐ヶ谷ザムザで、なまず映画と
『そして泥船はゆく』をジョイント上映いたします!

以前、ここで渡辺紘文のことを書いた。『魔王』『赤の女王』ではデブ男三郎役で出演しているが、こいつは一部のマニアに知られている『そして泥船はゆく』という映画の監督でもある。
渡辺は栃木県の大田原出身、大学を卒業後俳優を目指す。演技経験が一つもないのに無名塾を受けて自爆し、だったら映画監督になってやろうと日本映画学校に入学した。これだけで普通の人間ではないことがおわかりだろう。バカなのである。
その頃、俺は映画学校の演出脚本コースの担任で、何の因果か渡辺を二年間教えなければならなくなったのだった。
渡辺はデブで運動神経がなく体力もない。常識を知らず知力も相当疑わしいし一番肝心なセンスはまったくない。とにかく喋りが下手で何を言っているかよくわからない。緊張するほど挙動不審になり、女の子たちは気味悪がって誰も近づかなかった。当然だ。
脚本を書かせると、すぐに書いてくる。だが思いついたことをすぐに書いてしまうので内容がない。「少しは考えて書け」と教えると甲高い声で「了解しました」と返事をする。で、翌日嬉しそうな顔をして別な脚本を何本も持ってくる。読んでいるものが古いから台詞は時代劇のようだし、主人公がただただ叫び暴れて滅茶苦茶になって終わるような、何だか厭な感じの脚本ばかりであった。

『魔王』より

聞いてみると彼はコンプレックスの塊で、その反動であらゆるものを激しく恨んでいるのだ。金持ち、モテる奴、みんなに認められている奴、才能のある奴、綺麗な女とすべての女、犬、雀、同世代の若者全員、何もかもが自分を馬鹿にしていると思い込み憎悪を滾らせているのである。頭もおかしいのだった。
「その愚劣なブライドを捨てろ。教えてやる、虫だってお前に興味なんかない!」と諭すと泣きじゃくり、「了解しました」という。
それからいろんなことがあったが、渡辺は必死に映画にしがみついていた。バカで頭がおかしくてデブの渡辺にはもう映画しかなかったのだろう。否定しているのではない。歪んでいることがこの世界で生きる最低条件だ。
センスがないなりに少しは成長して卒業制作の監督に選ばれ、渡辺はますます太って卒業していった。その後、プロの現場を手伝ったり舞台の演出やオムニバス映画の監督をしたりしたけど、とうとう食い詰めて家賃が払えなくなった。
電話がかかってきて、故郷の大田原に戻るという。
「そうか。達者で暮らせ、じゃあな」「あの」「何だ」「あの僕、僕、映画を、まだ諦められません」などと泣いているのである。思わずカッとなって「東京じゃないと映画が撮れないと誰が決めた? 撮りたいならそこで撮れ、バカ! デブ!」と励ましてやると啜り泣きながら甲高い声で「了解しました」という。

『赤の女王』より

それから一年間。渡辺はプールの監視員のバイトをして(挙動不審だからバイトの面接を落ち続け唯一雇ってくれたのがプール)カメラを購入し、昔の仲間と音楽家の弟の四人で妙な映画を撮った。それが『そして泥船はゆく』だ。映画は作った奴が偉い。『泥船』は男の門出に俺が名付けてやった「大田原愚豚舎」の第一回作品となった。
この映画がどういうわけか東京国際映画祭に選ばれて六本木で上映された。更に世界各国の映画祭に招かれ、昨年末ついに新宿武蔵野館で公開までして、かなりのマニアを集めたのである。
渋川清彦演じるどうしようもなく駄目な男に己を投影したのは学生時代と一緒だけど、少し大人になった渡辺はルサンチマンをストレートに表現するのではなく、妙な形に無理矢理変形させた。そこを評価されたのだと思う。間違いなく渡辺にしか撮れない映画だ。そしてそういう映画を撮ることが映画監督の目的なのだ。諸君、デブの執念をナメてはいけない。

『そして泥船はゆく』より
主演:渋川清彦

現在『泥船』は栃木で自主上映を続けているが東京で見るチャンスはない。今回、連休の最終日、5月6日に急遽『魔王』『赤の女王』『そして泥船はゆく』の三本のを阿佐ヶ谷ザムザで上映することが決まった。この機会にぜひご覧下さい。とにかく渋川清彦が素晴らしい。なまず映画とは別な意味でびっくりすることを請け合います。
――先日、久しぶりに渡辺に電話した。
「二作目の脚本は書けたのか」
「いえ、その、いろいろ考えてしまって書けなくて」
「褒められようと思うから書けないんだ。ちょっと褒められたぐらいで舞い上がるんじゃない」
「スミマセン」
「今何キロある?」
「百キロです」
「ふん、俺を騙せると思うなよ。デブが百キロと言ったら必ずそれ以上あるものだ」
「……」
「ともかく書け。映画は脚本だぞ。お前から映画を取ったらただのデブのバカじゃないか。書いたら送ってこい!」
「了解しました」

大田原愚豚舎第一回作品『そして泥船はゆく/And the Mud Ship Sails Away・・・』
監督 渡辺紘文 モノクロ 88分