天願大介のなまずブログ

2014年11月11日

牛とカマキリとカメラマン

動物を撮影するのは大変だ。まずコントロールできない。そして予測できないことが起こる。
今回の撮影で最大の事件は「牛暴走事件」だった。
牧場の撮影中に牛が鼻輪を切って走り出したのだ。この渡辺牧場では、牛の鼻を守るために「壊れる鼻輪」を使っていて、それが古くなっていたらしい。

和牛と闘うプロデューサー。しかし彼女は自由を求め、こちらに突進してきたのである。
彼女はついに牧場主の渡辺さんに捕らえられた。
抵抗できない牛の角を引っ張る松浦君。

撮影助手の岡崎君はカメラを守り、プロデューサーの弟は柵に逃げ込んだ牛が外へ出ないように牛の前に立ちはだかった。牛は人がいる方向には逃げない。俺は柵の外で牛を威嚇するつもりで立っていたのだが、牛舎の主とプロデューサーに左右を挟まれた牛は追い詰められ、俺の立っている脇の柵を破ってこちらに飛び出したのである。柵の間には網が張ってあり、その網が凄い力で引っ張られて縄のようにもつれ、スタッフの足に絡まりそうになったのにはヒヤリとした。
誰にも怪我がなくて本当によかった。撮影ではいろんなことが起こる。牛が暴走したりもする。そしてしばらくすると、何もなかったようにまた撮影は続くのである。
話を広げる癖のある松浦祐也君はさっそく「牛殺し」と弟に名付けた。「牛殺しプロデューサーが猛牛の角を折って倒した」牛は元気に生きていますのでご心配なく。
暴走すると怖いけど牛たちは可愛かった。渡辺牧場は搾乳が主でホルスタインが多く、和牛も何頭かいた。和牛のほうが牛相がいい気がするし、生まれたばかりの双子の仔牛もいて、とてもおとなしく、まことに可愛い。
牛舎の作業員役の三浦誠己さんは度胸があって、すぐ牛に馴れたし汚れ仕事も逃げず、作業姿はなかなか堂に入ったものであった。最初は牛の大きさにびびっていた若いスタッフたちも、自然と触ったりするようになっていった。牛たちの持っている穏やかな力なのだろう。キャストの松原君は一頭の仔牛になつかれていて別れが辛かったようだ。

この牛舎では鶏や鴨を放し飼いにしている。というかほとんど野生化していて、鴨は近くのダム湖に家族で遊びに行って気が向くと帰ってくる。鶏は群れを作って遊び回り、牛の餌を横からついばみ、夕方になると牛舎の梁にとまって眠る。
牛を効率よく管理する近代的な設備ではなく、建物はかなり古い。それも味があるし何より自由な感じがとても気に入って、ここで撮影したいと強く思った。自由であることは本質的に美しい。撮影隊の騒ぎに巻き込まれた渡辺牧場のすべての生き物たちに深く感謝する。

――あるとき撮影の古谷さんが和牛をじっと見て考えこんでいる。近づくと、牛を飼いたいと思いまして、などと言う。

撮影の古谷さん。凄腕だが動物好き。
写真は昨年末の『魔王』の現場。
何頭か仔牛もいてとても人なつこい。

「飼う?」
「無理ですかね。場所はあるんですが」
「いろいろ大変そうですよ」
「そうですか。そうですよね……ポニーはどうですかね」
「ポニーなら、まあ、いけるんじゃないですか」
古谷さんは何度も頷き、しかし牛から目を離そうとしないのだった。
古谷さんが動物好きでドーベルマンを飼っているのは知っていたが。やはりこの人はおかしい。古谷さんは『あずみ』や『クローズZERO』、ゴジラやウルトラマン(映画)、『ルパン三世』まで撮った、アクションの得意なカメラマンだ(本人はアクションは好きじゃないと言っている)。俺とは『暗いところで待ち合わせ』から『魔王』まで一緒に仕事をしてきた。腕だけではなく信用できる男だ。しかし互いに私生活のことはよく知らない。
ちなみに今回、カマキリが重要な役どころで出演している。古谷さんはどういうわけかカマキリを飼って越冬させるのが趣味の人でもあった。カメラマンというものは対象物を眺め観察する習性がある。なので古谷さんはカマキリの習性を知り尽くしている。その貴重な知識のおかげでカマキリの難しい撮影はうまくいったのだ。
東京に戻っての打ち上げで古谷さんは音楽のめいなCo.のチャンさんに牛の件を相談していた。チャンさんは真面目な顔で「まずは山羊から始めなさい」とアドバイスしている。 どいつもこいつも頭がおかしい。