天願大介のなまずブログ

2014年2月28日

中村映里子さんと松浦祐也さんのこと

魔王と嘉子の近くにそれぞれいる重要な役、みどりと喜久夫は中村映里子さんと松浦祐也さんにお願いした。今回初めて仕事をするこの二人の俳優は、俺の教え子の映画にそれぞれ出演している。

喜久夫の部屋のロケセットに飾られたエロ本を熟読する松浦君。四方に貼られたお札はすべて美術部の制作である。

俺は日本映画学校で映画を教えていた(今は日本映画大学になって、まだ教えている)。
ある年の卒業制作に『八月の軽い豚』という作品があり、俺が統括(プロデューサー)を担当することになった。
撮影現場に顔を出したとき、深夜の雨降らしの中パンツ一丁で包丁を振り回し泣き叫んでいる男がいた。もちろん演技である。その男、松浦君はその映画の準主役だった。濡れたパンツの松浦君に挨拶したのが初対面だと思う。監督をした渡辺紘文を松浦君は気に入ってくれたようで、卒業した渡辺演出で色川武大の「狂人日記」を舞台化した(渡辺のことはまた書く。『魔王』にキャストとして参加しているのだ)。
松浦君は見てくれは小汚いが愛嬌があり、小物感が魅力で、昔の日本映画によく出てるような感じの俳優さんだ。彼自身、古い映画をよく勉強している。
昨年の夏、猛暑の新宿を歩いていたとき松浦君とたまたますれ違った。『魔王』の脚本を書く前だったが、「自主映画やるかもしれない」と言うと、「お願いします!」と帽子を脱いで深々と頭を下げた。礼儀正しいのである。
ヒロイン嘉子の親戚の喜久夫という役がある。喜久夫は気のいい田舎の兄ちゃんで、でもどこか屈折していて嘉子の周りをいつもうろちょろしている。この役は松浦君がいいんじゃないかと思い、渡辺を通じて脚本を送り、夏の約束通り参加してくれることになった。
他の俳優さんは久留里の古い旅館に宿泊してもらったんだけど、松浦君は俺たちスタッフと一緒に雑魚寝してもらった。下戸なのに宴席が好きで、料理させると凄い速さでどんどん作る。食うのが間に合わないのに無視して作り続け、笑顔で全部食わせようとする。過剰なのである。
撮影中は現場が好きでたまらない感じで、寒くても眠くてもいつも嬉しそうに笑っている。俳優なのに時に演出部や制作部のように働き(聞けばピンク映画の助監督をやっていたそうだ)、自分の出番になると別人のように緊張する。変な俳優だ。
中村映里子さんは、これも俺の教えた李允石(イ・ユンソク)の初監督作品「ShortVacation」(今年公開予定)に主演していた。これは女の子二人の映画で、微妙に揺れる不安定な感じがちょっと面白い。允石は韓国人だが映画学校卒業後日本に残って制作部のプロになっている。
この夏、俺は日本映画大学と韓国芸術総合学院(Karts)の学生たちによる短編映画の、日本側の統括をやっていた。ある役で中村さんがキャスティングされていて、現場で挨拶した。ゆっくり喋るくせに、心はまったく落ち着いていない感じで、こちらを不安にさせる。

みどりが着ているのは昔の事務服。衣装の千代田さんはアームカバーに拘った。中村さんが着ると自然な感じに見える。

『魔王』にはみどりという役がある。みどりは魔王の秘書的な存在で果てしなく不幸な女だ。
不条理に生きる魔王に、みどりは意味不明な方法でひたすら虐げられる。何とか抵抗しようと思いながら毎朝おぞましいものを配達し、塩を撒き、魔王の狂気に苛まれていく。不幸な女である。しかし弱いだけの女には魅力がない(俺の映画にはそういう女は出てこない)。リアルに加えて妙な感じが必要になる。
挨拶したときの印象から中村さんにお願いしようと思い、今回ラインプロデューサーで参加した允石に連絡してもらった。
脚本を読んだ中村さんは「この脚本はよくわからないんですけど、何だか面白そうなので、うふふふ」と笑みを浮かべた。何を考えているかわからない。
中村さんはモデル出身でスタイルがよく顔立ちも可愛らしい。理屈でなく演じながら役を理解していくタイプだ。過酷な撮影でも終始マイペースで、瞬発力があり、映画向きだと思う。
そして彼女の芝居は、何というかちょっと「太い」のである。繊細でありながらもどこか大らかというか、役の狭いところにピタっと嵌まらず、ほんの少しズレている。そのことでみどりはリアルな不幸女以上の存在になった。
男優に「大きさ」が必要だとすれば女優は「太さ」だ。これは努力で手に入るものではない。もちろん太いだけでも、太すぎても駄目なのですが。